SECRET COCKTAIL


「座れば」



ぼんやり突っ立ったままの私に、雅君が呆れたように声を掛ける。

私は何とか身体を動かして、いつもの席に座った。



カツン。


座った途端、目の前に置かれた湯気の立ち昇るワイン色のグラス。


視線を上げると。


「寒かったろ。飲めよ」


少し困ったような顔をして、雅君が言った。


「え・・・」


「ホット・アメリカン・レモネード」


「・・・ありがとう」


こんな時も、雅君は私に優しい。



あの時、一度雅君に突き放されたけれど。

再会してからは、一度も突き放された事はない。


優しい雅君は、こんな風に困った様な顔を見せるだけ。

< 224 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop