SECRET COCKTAIL
「座れば」
ぼんやり突っ立ったままの私に、雅君が呆れたように声を掛ける。
私は何とか身体を動かして、いつもの席に座った。
カツン。
座った途端、目の前に置かれた湯気の立ち昇るワイン色のグラス。
視線を上げると。
「寒かったろ。飲めよ」
少し困ったような顔をして、雅君が言った。
「え・・・」
「ホット・アメリカン・レモネード」
「・・・ありがとう」
こんな時も、雅君は私に優しい。
あの時、一度雅君に突き放されたけれど。
再会してからは、一度も突き放された事はない。
優しい雅君は、こんな風に困った様な顔を見せるだけ。