SECRET COCKTAIL
でもある日、女の客しか来ないような当時俺が働いていた店に、ビシッとスーツを着た穂積が俺を指名して入店してきた時にはさすがに驚いた。
スーツの襟元に、弁護士バッジを神々しく光らせていた姿が忘れられない。
その穂積が、テーブルの上に俺の勤務時間や店の売り上げ等、全て調べ上げた資料をばら撒いて、悠然と言ったんだ。
『もう充分に借金は返し終わってる。弟ももう卒業だ。これ以上この店に縛られている必要はないけど、どうする?』と。
契約違反だと喚き散らしたオーナーにも平然と言い放った。
『風営法違反でも、不当労働でも、労基違反でも、こちらはどうとでも訴える準備があります。雅弥を雇って頂いた恩もあるので、勿論そんな事はしませんが、その代わり身一つで雅弥を返して貰います。どうです、良い話でしょう?』
相変わらず、凄いヤツだった。
誰もあいつに適うはずがない。
俺が今あるのは。
穂積がいてくれたからと言っても大袈裟じゃない。