SECRET COCKTAIL



チリン。



開店してすぐに鳴ったベル音に視線を向ける。


その途端、舌打ちが出そうになった。



「あれ、高城さん、木戸は?」



店内を見回しながら入って来る男は、美來と同期というあの男だった。


「今日は、来てない」


それどころか、あの日以来すでに数日、美來はここに来ていない。

守りたい、なんて思っておきながら、美來を傷つけているのはいつだって俺自身だ。


「えー、マジっすか。なんだ、急いで出て行ったから、絶対ここだと思ったのに」


そう言いながらも、その男はカウンターのスツールに腰かけた。


美來がいないなら、こいつはここに用はないはずなのに。



「せっかくだから飲んでいこうかな。高城さんとも話したいし」



意味深に笑みを浮かべる男が話したいという言葉の意図に、すぐに気が付いた。

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