SECRET COCKTAIL



本当は、彼女が気付いてしまうのが怖かった。



自分の抱いている感情が、本当は恋ではないと気付いてしまうのが。


いつか現実に気が付いて。

俺の様なやっかいな男じゃなく。

目の前の男の様に真っ当な道を歩いている男と一緒になる方が、いかに幸せになれるのかと気付いてしまう事が。


そして、いつか俺の前から消えてしまうのが怖かった。


あの日の様に、俺の前から完全に居なくなってしまう事が堪らなく怖い。



俺はいつの日からか、ただ黙って傍にいてくれる彼女にさえ束の間の安らぎを感じていたのだから。



「そう言えば高城さん、あの日、木戸に話を聞きました?」


「あの日?」


と自分で口にしてから、何の事か気が付いた。

あの日、未來が店の前で待っていた日の事だろう。



未來からこの男と付き合うと聞いた日の事だ。

< 267 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop