SECRET COCKTAIL


「熱いから気を付けろよ」


出来立てを知らせるように、器から立ち上る湯気。

その湯気と共に、美味しそうなリゾットの匂いが鼻腔に届く。


それだけで元気がない胃袋も、活気を取り戻してくれるような気がした。


白ワインとチーズ、三種類の茸を使ったリゾットは、私のお気に入りの裏メニューの一つ。

あまりに美味しいから、メニューに加えるべきだと言っても、「手間がかかるから無理」と一言。


このBarは雅君一人で営業しているから、メニューには手のかかる料理はほとんどない。


そもそも、ここは食事目的で一軒目に来るようなお店ではないから、空腹で来るお客さんは滅多にいないし。

だから、おつまみ程度のメニューで充分なのだろうけれど。


その手間が掛かると言う料理を、私にはすんなりと作ってくれる。


たったそれだけの事で、単純な私が舞い上がるには充分な理由になる。




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