SECRET COCKTAIL
いつもの席に腰掛けると。
すかさずいつものように、目の前にきめ細やかな泡が乗せられたビアグラスが置かれる。
そんな些細な出来事にでさえ、単純な私はすぐに頬が緩んでしまう。
「頂きます」
と言ってそれを一口飲んで。
ふうと一息ついてから。
いつもと違う事実に気が付く。
「あれ?なんで・・・」
すでに店内には、良い香りが漂っている。
何もオーダーしていないし、私の他にお客さんがいる訳でもない。
目の前には雅君が立ったままなのに。
私が来る前に、何か仕込みでもしていたのだろうか。
そんな事を思って厨房の方に視線を向けていると。
「ねぇ、兄貴、ちょっと味見してみて。デミグラスソース、これでどうかな?」
突然雅君以外の声が聞こえて、厨房から一人の男の人が出て来た。