SECRET COCKTAIL
「ここ、いい?」
突然の出来事に呆気にとられていると、無言を了承と捉えたのか、その人物が隣に腰を降ろした。
カウンターの雅君は黙ってその場を離れ。
男性が座っていた席から飲み物を持ってきて、目の前にセッティングする。
「君と話してみたくてさ」
軽い口調で話しかけて来る男性と面識はないはずだ。
縋るように雅君に視線を向ければ。
彼は視線に気が付く様子もなく、すっと目の前から離れていく。
先程までの男性の席のテーブルを拭いて。
そのままその場所で氷を砕き始めた。
その冷静な対応に、胸がチクリと痛む。
雅君を責めることなんてできないけれど。
この状況が雅君によって作られたことに、突き放されたような疎外感を抱いた。
改めて雅君の気持ちを思い知らされたような気がした。