SECRET COCKTAIL
「迷惑だった?」
「あ、いえ」
慌てて意識を戻して笑顔を作ると、彼は安心したように息を吐く。
「前にも見かけた事あるけど、良くここには来るの?」
「はい。仕事終わりに時々」
時々、と言ったのは、ほぼ毎日来ていると言ってしまったら面倒な事になるのではないかと本能が告げたからだ。
「そっか。ここのカクテル美味しいもんね」
人の良さそうな笑顔を浮かべる彼は、決して悪い人ではないのかもしれない。
女一人で飲んでいる時に近づいてくるなんて。
その下心が分からないほど子供ではないけれど。
相手は雅君のお店のお客様なんだから、上手くかわすくらい自分でしないといけない。
雅君に迷惑はかけられない。