SECRET COCKTAIL


片肘を付いてこちらを向いた藤井さんは、右手で私の髪に触れた。


酔っているんだろう。


細められた瞳が、とろんとしていてアルコールの酔いを感じさせた。

頬に触れた指先に、ぞくりと嫌悪感が走る。

びくっと僅かに距離を取ったけれど、何を勘違いしたのか相手は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「本当に、可愛い」


助けを求めるように雅君の姿を探すけれど。

雅君はテーブル席のお客さんのオーダーを取っていて、カウンターの中にはいなかった。


でも、雅君に助けを求める訳にはいかない。

こんな場面、一人で切り抜けなくちゃいけない。


じゃないと、雅君に言われてしまう。



もうここには来るな、と。


私が、最も言われたくない台詞を。





< 37 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop