SECRET COCKTAIL
「ほら、急げ」
促されるように慌てて席を立って鞄を手にする。
「表はダメだ。鉢合わせるだろ。裏口使えよ」
「あ、そうだね。ありがとう」
確かに正面から出ると、きっと藤井さんと会ってしまうだろう。
雅君の言葉に従って、裏口を使わせてもらう事にした。
厨房の隣には、雅君が事務所として使っている部屋があって。
ソファと小さなテーブルが置かれている。
お店とは違い、雅君の私物が置かれているそこは。
雅君の存在を身近に感じる事が出来て、私が好きな空間でもある。
その部屋につながる扉の前を通ると、厨房の奥に裏口がある。
その扉を開けて外に出た。
丁度坂になっている土地の造りのせいで、正面と違い裏口を出たそこには階段がない。
正面から入ると地下にある店も、裏口を通ると一階にあるかのように感じられる。