SECRET COCKTAIL
よし、営業中だ。
路地に入って見えた薄明りを確認して、小さくガッツポーズ。
こんなに間を空ける事がなかったから、妙な緊張感と焦燥感が押し寄せる。
逸る気持ちのまま足早に階段を下りて、ひんやりとする銅板の扉に手を添えた。
「なんだよ、こんなところに飲みに来るなら誘えって」
扉を開ける直前で背後から聞きなれた声が降って来て、びくんと身体が跳ねた。
「え、ちょ、多田君っ?」
「へぇ、こんな場所にBarなんてあったんだ。良さそうなBarだね?」
私の動揺なんて気にする様子もなく、マイペースに周囲を見回した。
そしてその場に固まる私をお構いなしに、彼は扉に手を掛けて。
チリン。
そのまま、躊躇する事もなく扉を開けた。