SECRET COCKTAIL
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
ほら、と多田君に促されてその席に向かう。
躊躇せずに歩き出した多田君の後ろを渋々追うと。
不意に雅君の視線がこちらに向けられた。
僅かに見開かれた彼の瞳。
その瞳に映るだけで、いつもは幸せな気分になれるのに。
今日は気付いてほしくなかった、と思うなんて本当に身勝手だ。
テーブルの前に立つ雅君の傍を通るとき、彼の香りが鼻腔を掠めて胸がぎゅっと締め付けられた。
「いらっしゃい」
周囲に聞こえない位小さく囁かれた声は、きっと私に向けられた物だった。