SECRET COCKTAIL


「俺、ビール。木戸は?」


椅子に座ってすぐ、多田君がメニューを手渡してくれたけれど。


「あ、私は」


と、視線を彷徨わせてしまう。


だって、大抵一軒目のお店で一杯目だけビールを飲む私は。

他のお店でお酒を飲んでからこの店に来る時、いつもビールは頼まない。


そういう時は、すぐに雅君のお勧めを作ってもらうのだけれど。

流石に今多田君の前で、いつも通りに振る舞ってもいいものなのか戸惑っていた。


メニューを開かないまま視線を上げると。

雅君は、チラリとこちらに視線を向けてから。


「かしこまりました」


と私の手からメニューを取り上げて身を翻し、すぐにその場を去ってしまった。


多分、いつもオーダーを任せ切っている私が、咄嗟にメニューの内容さえ頭に浮かばない事を察してくれたのだろう。

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