SECRET COCKTAIL
「なに?なんかあった?」
顔を覗き込むようにして椅子に座った多田君に慌てて首を振る。
「ううん、何もないよ。どうして?」
「だって、なんか寂しそうな顔してる」
「・・・・・」
「図星、か」
そんな分かり易い顔をしていただろうか。
私の気持ちなんか、簡単に見透かしておいて。
自分の方がなんだか寂しそうに笑みを浮かべて、まだ泡が残っている新しいビアグラスを傾けた。
沈黙の空間が気まずくて、私も新しく目の前に置かれたギブソンを口に運んだ。
あれ、なんだろう。
さっきまでのカクテルと、なんだか印象が違う。
すっきりとした飲み口と、ジンの香りは正にそのままなのだけれど。
口が慣れたせいなのか、一杯目のそれよりもアルコールの強さを感じさせなかった。
それからしばらく多田君と話を続けて、何杯かカクテルを飲んだような気がするけれど。
その後、自分が何を話していたのか途中から良く覚えていない。