SECRET COCKTAIL
vodka gibson
「寝ちゃったか」
目の前で、無防備に眠りに落ちてしまった相手を、思わず笑みを浮かべて見つめてしまう。
可愛い顔に似合わない位、強いカクテルを飲む姿が意外だと思っていたのに。
あっさり眠ってしまった事が、彼女らしい。
なんだか、取り残されてしまったような気にもなるけれど。
今日まで全く相手にもされていなかったのだから、随分な進歩なのだろう。
会社でもいじらしい位仕事に一生懸命な姿は、密かに男性社員の目を惹いてしまっているのに。
それに気付いていないのは、きっと彼女だけだ。
彼女はそんな視線に気付く事もなく、誰の誘いにも乗る事はなかったから。
入社以来、浮いた噂は一つもなくて、どこか安心しきっていた自分もいた。
今はきっと、誰にも恋をしていないんだろう、なんて。
自分は、同期で警戒される事もなく話すことが出来るのだから、他の人より一歩近い距離にいるのだろう、なんて。