SECRET COCKTAIL


「また、出直します。今日はこんな時間まで申し訳ありませんでした」


席を立って、頭を下げた。


一瞬彼女をどうするべきかと考えて視線を向けると。

彼は心配はいらないと言う風に首を振った。


「起きたら、俺が送る」


自分が、と言い掛けた言葉を飲み込んだ。

悔しいけれど、今はそれを言える立場にいない自覚はあった。


「よろしく、お願いします」


それを言うのが精一杯だった。



名残惜しさを引きずりながら、店を出た。


チリン、と小さく音を鳴らして閉まった扉を後ろ髪を引かれるように振り返ると、掛けられているclosedの札が目に入る。


まだこの店の営業時間を残した時間帯。


その事実に、俺と話す場を設けた彼の本気度を知った気がした。

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