SECRET COCKTAIL


玄関で靴を脱ぎ、深く考える事のないまま廊下を歩く。

俯きながら階段の方へ向かって、そのまま上ろうと手すりに手を添えようとした時。


「うっわ、ごめんっ」


「きゃっ」


階段から降りてきた人物と勢い良く正面からぶつかった。


丁度階段を昇りかけていたせいで、不安定にぐらつく身体。

転ぶ、と思って次に来る衝撃に身構えた時、よろめいた身体を支えてくれたのは力強い一本の腕だった。

そのまま相手の胸に飛び込む形になって、しがみ付くように手に触れた物を咄嗟に掴む。


ふわりと微かに鼻腔をかすめる、男物のウッド系の香り。

好みの香りだ、なんて頭の隅に微かによぎる。


「大丈夫!?」


焦りを滲ませた声音で尋ねられて、我に返って慌てて上半身を離したけれど、顔を上げた途端視界に飛び込んできたものに、目を見張って息を飲む。




窓も開いてないのに、風が通り抜けた気がした。


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