強引な彼の求愛宣言!
少し考えてから、かぶるだけできちんと感が出る楽ちんサマーニットワンピにレギンスを合わせる。

まだ9月に入ったばかりで残暑が厳しいとはいえ、会社の先輩と飲むだけに生脚出すほど気合いは入れられません。

メイクも、顔にプレストパウダーをはたいてささっと眉を描いただけ。手抜きと言われてもいい。だって相手は松岡さんだし。


心配症の母親にひと声かけてから家を出て、私はタクシーを拾う。

やっぱりひとり暮らししたいなー。実家暮らしは楽だけど、この歳になると親的には将来の旦那さん候補のことが気になるらしく、恋愛面でいろいろと探りを入れられるのがいたたまれない。

あ、そうだ。部屋探しを理由に、三木くんから武藤さんへ取り次いでもらったりできないかな。

三木くんには白い目で見られそうだけど、そんな建前があれば堂々とあの素敵なお声と話す機会ができるし。


そんなことを考えながらタクシーに揺られていると、いつの間にか松岡さんが指定した居酒屋の前へと到着していた。

チェーン店ではなくて、個人経営の大衆居酒屋って感じ。
ガラガラと味のある引き戸を開けると、中から威勢のいい声が聞こえてくる。




「おー、深田! こっちこっち~!」



私がまわりを見渡すよりも先に、奥の座敷にいた松岡さんが気付いて手を挙げてくれた。

近付いて来た店員さんに会釈して、店内へと足を進める。



「すみません、お待たせしまし、た……」



松岡さんにかけようとした言葉が、フェードアウトしていく。


だって、なんで。

座敷であぐらをかいている松岡さんの、テーブルを挟んだ向かい側。

壁を背にして座っている、白いワイシャツ姿のあのひと、って。
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