強引な彼の求愛宣言!
私の気持ちなんてお構いなしに、タクシーは走り続ける。



「もし今のこの状況を深田さんの彼氏が知ったら、俺と松岡ぶん殴られるな」



シートにもたれて私を横目で見ながら、武藤さんはそんなことを言った。

その口元にはかすかな笑み。……さっき、飲みながら『深田はずっと彼氏いないよな~』って松岡さんにいじられてたの、わかってるくせに言ってるんだ。



「どうせ、彼氏なんていないですもん」

「窓口やってて、男に声かけられたりしないの? 連絡先渡されたりとか」

「……ないことはないです、けど」



「けど?」と、武藤さんが続きを促してくる。

私はシートに深く背を預けて、軽くため息を吐いた。



「なんというか……そういうことしてくれるのって、ひと回り以上歳が上の、……ええっと、だいたいがオジサマです。最近の若者は草食系が多いのか、ガッツが足りないと思います」

「ふ。そうなんだ」



楽しげに小さく笑う、その声が耳に心地いい。


……ああ、うん。

こうして聞くと、やっぱり。



「……いい声ですよね、武藤さん」

「え?」



不意をつかれたように、彼が目をまるくする。

あ、いいな。その表情も、好き。

そんなことを思いながら、彼を見つめてまばたきをした。
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