強引な彼の求愛宣言!
◆イレギュラーな朝
◆3
「……ん……」
コーヒーの、いい香りがする。
それから、ポタポタと水滴が落ちる音。……ああこれって、コーヒーメイカーでドリップしてる音だ。
香ばしいコーヒーの香りで目覚めるなんて素敵な朝だなあと寝返りをうちかけて、ふと違和感を覚える。
実家の私の部屋は、2階だ。1階にあるキッチンとは離れているし、こんなに濃くにおいが届くなんてこと、今までなかった。
そして、今自分が寝ているお布団。……なんだかまくらの感触も違うし、自分のシングルベッドよりだいぶ広いような……。
がば、と、両手を下について上半身を起こす。
その瞬間、ちょうど部屋の中に入ってきた人物と、まともに視線が絡まった。
「あ、起きた?」
「………」
私に向けてやわらかく微笑む、その人物は。
「?! むと……っ?!」
「はい、武藤です」
笑って答えながら、武藤さんは唖然とする私に構わず近付いて来た。
私のいるベッドのすぐ目の前で立ち止まり、軽く身体を屈める。
「おはよう深田さん。ちょうどコーヒーを淹れたところなんだけど、一緒に飲む?」
「え、……あ、はい……」
「うん。じゃあ、あっちの部屋で待ってるから」
最後まで笑顔の武藤さんはくしゃりと私の髪を撫でると、そのままあっさり部屋を出て行った。
残された私、呆然。勢いで彼の問いにはうなずいてしまったけど、置かれている状況について何ひとつわかっていないままだ。