強引な彼の求愛宣言!
「……あの、武藤さん。昨日って……」



マグカップを両手で包み込むようにして持ちながら、向かいに座る人物に思いきって話を切り出した。

パンを口に運びかけていた手を止め、武藤さんが微笑む。



「ああ、そうだな、何も言わないと不安になるよね。昨日、俺と深田さんで一緒にタクシーに乗って帰ろうとしてたんだけど、どうにも深田さん眠そうだったからさ。そのまま帰すのも心配で、とりあえずウチに連れて来たんだ」

「や、やっぱり、そうだったんですね……」



うう、いい歳して、私恥ずかしい。

本当は合わす顔もないくらいなんだけど、改めて、背筋を伸ばして武藤さんを見た。



「ごめんなさい。迷惑かけて」

「そんなことないよ。かわいい寝顔が見られたし」

「っう、そ、んな、からかわないでください……」



私に気を遣わせないためか、彼はあくまで笑顔でイタズラっぽいことを言う。

お世辞でも、憧れの人にそんなこと言われたら、ドキドキしてしまうのが女子の性だ。

熱くなった頬を隠すようにうつむいていると、武藤さんが続けた。



「それから……念のため言っておくと、変なコトは一切してません。俺、こっちのソファーで寝たし」



さらっと言うけど、親切にしてくれた家主をソファーで寝かせるとか……!

思わずテーブルに両手をつき、私はこうべを垂れる。



「ほ、ほんとに、申し訳……」

「いや、そんなの当然だし。女の子をソファーに寝かせるわけにはいかないでしょ」



……『女の子』って。私もう、そんな歳でもないですけど。

でも、うれしい。武藤さんにそうやって女の子扱いしてもらえるのは、恥ずかしいけどすごくうれしい。

……一晩同じ家にいて手を出されなかったというのは、もしかして女としてショックを受けるべきところなのかもしれないけれど。
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