強引な彼の求愛宣言!
けどそれだけ、武藤さんがやさしくて、紳士ってことだもん。

甘いバリトンボイスにぴったりの、素敵なひと。……フツーな私なんかじゃ、つり合わないなあ。



「……武藤さんの彼女になれる人は、幸せですね」



思わず、小さくもらしていた。

「え?」と、彼が目をまたたかせる。



「武藤さんって、やさしいし、オトナだし、紳士だし。なんか私、ダメなとこばっかり見せて、恥ずかしいです」



昨日の居酒屋で、今は付き合ってる人はいないって、言ってたけど。

こんなに素敵な男性なんだから、きっと引く手数多なはず。


ゆうべは楽しかった。そして今は、彼が淹れてくれたおいしいコーヒーで一緒に朝食ができた。

もう、それだけで、じゅうぶん。



「あの、私──」

「……それは、どうかな」



もう帰ります、と続ける前に、武藤さんが言葉をかぶせてきた。

今度は、私の方が目をまるくする番だ。今までとは違う、どこか意地悪そうな笑みを浮かべた彼が立ち上がる。



「俺がやさしくて、紳士だって? でもまあ、そんなふうに思ってくれたなら、成功かな」

「え……」



セイコウ、って。なにそれ、なにが?

ゆっくりとテーブルをまわって、武藤さんが私のすぐ隣りまで来た。

こちらを見据えたまま、その場にひざをつく。
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