強引な彼の求愛宣言!
「“声は”、ね。……じゃあ、こういうのはどうかな」



彼のセリフを疑問に思う間もなく、その端整な顔が近付いて来た。

身構える私の左耳に、くちびるを寄せる。



「こうやって、」

「ッ、」

「すぐ耳元でささやかれたら、どう? これだけで、感じる?」



ぞく、と、背筋が粟立った。

もはや言葉も出ない。耳から脳へとダイレクトに流される武藤さんの低い声は、簡単に私の思考能力を奪った。

くすりと、彼が笑みをもらす。



「ほんと、きみは素直でいい子。エロい顔しちゃって」

「な……っは、はなし、」

「まだ、離さない」



ちゅっと耳たぶにキスをされて、身体がはねた。

なんで。なんで、こんなこと。



「……麻智」



ひどい。ずるい。

こんな、耳元で。私が大好きな声で、そんな。



「ほら、赤くなった」



私の顔を見て、武藤さんが笑いまじりに言う。

たぶん、何の迫力もない真っ赤な顔で。ギッと、そんな彼を睨みつけた。



「さ、最低ですね……!」

「そうかな。自分が持ってる武器を駆使して、何が悪いの?」



あっさりとそう返して、武藤さんは小さく首をかしげる。

この人本物だ。本物の、腹黒だ。

どうしよう、逃げられそうにない。というか、この声に逆らえそうにない。
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