強引な彼の求愛宣言!
「なに、朝っぱらから。うるっさいんだけど」

《おまえさ、昨日深田のことちゃんと無事に送って帰ったよな? まさかお持ち帰りして夜戦してねぇよな?》



夜戦て。どこまでも体育会系だなあ松岡さん……。

だけど今はその熱血さに感謝しながら、急いでバッグの中のレギンスを着用する。

背を向けている武藤さんをちらりと確認してみると、彼はものすごくバツの悪い表情をしていた。



「……してねーよ。というかしてたとして、おまえに関係ない、」

《あっ、つーかもしや、今まさにもう一戦交えようとしてたとかじゃないよな?! てめぇ武藤俺の後輩にそんなんしてたら許さ》

「してねーっつの!! 無事送り届けました!! 切るぞ!!!」



話の途中で大声を出す松岡さんの言葉をさらにさえぎって、武藤さんは半ば怒鳴るように電話を切った。

やけくそ気味なその言動を目の当たりにして、私はつい呆然。



「……武藤さん。そんな堂々とした盛大な嘘、私生まれて初めて聞きましたよ」

「そうだな。でも今、半分は嘘じゃなくなるから」



うんざりしたようにため息を吐き、武藤さんはスマホをポイッとソファーに放り投げる。

……それはもしかして、このまま私を無事家に送ってくれるってこと?



「アイツなんなの? きみの父親なの?」



苦々しい顔で、武藤さんがコーヒーの入ったマグカップを持ち上げる。

私はにっこり、普段窓口で見せるものと同じ笑顔を浮かべた。



「違います。頼れる先輩です」

「それはそれは……素晴らしい職場だな」



そうは言うけど、全然心こもってないですよ。

これ食べたら今度こそ送るから、と、武藤さんは言ってくれた。

彼にうながされ、私も再びテーブルにつく。

ドキドキ鳴り止まない鼓動を落ち着かせるように、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
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