強引な彼の求愛宣言!
◇ ◇ ◇
武藤さんが窓口に現れたあの日から、すでに2週間。
結論から言うと、私が変に緊張しながら過ごしていたその間、今日まで1度も彼の姿を見ることはなかった。
なんだか、拍子抜けだ。自分の気持ちも彼の真意もよくわからないままずっと悶々としていた私が、馬鹿みたい。
彼につけられたキスマークを隠すためのガーゼも、もうとっくに外している。
まるで、あんなことがあったのは夢だったみたいに。いまはただ、何の傷痕もない肌色の皮膚があるだけ。
「深田さん、定期の検印できたよ」
「あ、はい! ありがとうございます」
預金担当の女性次長に声をかけられて、私はすかさず後ろを振り返った。
テラーが3人横並びに座っている窓口。その背後には私たちの処理した書類等をチェックしてくれる上司のデスクがあり、検印が終わったものを入れておくケースに私が先ほど渡した定期預金証書が置いてあった。
手に取って、念のため再度中身を確認。必要なところに私と次長のシャチハタが押してあることを目視し、定期預金規定と一緒に証書袋の中へと入れた。
「里中さまー」
証書に書かれた名前を呼ぶと、正面のソファーに座っていた若い女性が立ち上がる。
カウンターの目の前まで来た彼女に、私はにこりと笑みを向けた。