強引な彼の求愛宣言!
「お待たせいたしました。こちら1年ものでお作りさせていただきましたので、ご確認くださいませ」



言いながら、カルトンに載せた証書を差し出す。

里中さんはまじまじとそれを見つめた後、ぎこちなく微笑んで「たしかに」とうなずいた。



「それから……こちらは、今回定期預金をお作りいただいたお礼の粗品でございます」



私が取り出した小ぶりな袋を受け取りつつ、里中さんが軽く首をかしげる。

そんな彼女に、笑みを崩さないまま続けた。



「この入浴剤、とってもいい香りなんですよ。お仕事でお疲れのときに、オススメです」



私が渡した粗品は、2個セットの固形入浴剤とポケットティッシュを雑貨屋さんで買ったかわいいビニール袋に入れて、ワイヤーリボンで留めたもの。

この里中さんは今年の4月、私が永田支店に異動してきて1番最初に新規で普通預金を開設したお客さまだ。

聞けば、3月に大学を卒業して社会人になったばかりとのこと。その給与振込用に、口座を作りに来たという話だった。

そして今日、彼女が契約してくれた定期預金は、初めてのボーナスを利用してのもの。

10万円の契約では、正直、あまり原価の高い粗品はお渡しできないんだけど。

それでも毎日仕事をがんばっているであろう彼女に、数少ない中でも、1番よろこんでもらえそうな物を選んだつもりだ。
< 42 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop