強引な彼の求愛宣言!
「──あれ? 川井さんじゃないですか」



唐突にそんなセリフが聞こえてきた方向へ、私はパッと顔を向けた。


……うそ。こんな、タイミングで。

どんなときも私の心を捕らえて離さない、その声を。私が聞き間違えるわけがない。



「ん? あらー、不動産屋のお兄さんじゃないの」

「武藤です、川井さん。先日はお世話になりました」



にこやかな笑みを浮かべながら、スーツ姿の男性──武藤さんが、こちらに近付いて来る。

カウンターを挟んですぐそばに立ち止まった彼を、信じられない思いで見つめた。



「こっちこそ、たくさん世話になっちゃって」

「いえ。川井さんのようなお客さまがいてくださってこそ、ウチの仕事も成り立ってますから」

「まー、上手ねぇ」



どうやら、このふたりは顔見知りらしい。

私に対してとは打って変わり、川井さんは武藤さんに笑顔を見せている。


なんだか唖然としながら、目の前でやり取りするふたりを眺めている私。

ふと、一瞬武藤さんと目が合って、どくんと心臓がはねた。

視線が交わったまま、たしかにそのくちびるが弧を描いたのを確認した直後。彼は自然に視線を逸らし、その眼差しを受付カード発行機へと向けた。



「ああ、今日は混んでるから番号札を引かなくてはいけないですね。待っている間ご一緒してもいいですか?」

「あら、いいわよー」



えええ?! さっきまでのゴリ押しはどこへ??!

そうは思うけど、突っ立ったまま何も言えず。武藤さんはボタンを押してふたり分受付カードを発行すると、会話を続けつつ先に出した分を川井さんに渡す。

彼女もなんの抵抗もなく、……というかむしろ笑顔でそれを受け取り、ふたり並んでロビーのソファーに落ち着いた。
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