一人より二人





 どうやったら、そんなに大人になれるのだろう。
 そういうと、彰久さんは困った顔をして「大人じゃないよ、僕は」という。



「僕はいつだって子供ですよ」

「なら私は赤ちゃんになっちゃうじゃない」

「それは困りますね」


 
 そうやって、笑う彰久さんだったが「璃子さん」と私の名前を呼んだ。


「僕は施設で育った、というのは話しましたね」

「う、ん」

「母が亡くなり、バランスを崩した父は自殺しました。親戚こそいましたが、いざというとき、そういう方々は手を差しのべないことが多い。いや、それぞれの生活で必死だから、というのもあるのでしょうが」



 私は、ただ黙って聞いた。

 言葉を区切った彰久さんは、本を閉じて端に置き、私にもベッドをすすめる。ごろんと横になって、二人だけで話すというのは秘密を共有しているようで楽しい。

 もっとも、彰久さんの話すそれは楽しいものではないが。


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