一人より二人
そんなようなことを言って、私は彰久さんの手を引いて後にした。車まで戻ってから、私は青ざめた。やばい。ごめんなさい。どうしよう、と。
だか、変わりにやってきたのは抱擁だった。
―――その時のことを思いだして、ああもう、と思った。
「でも、ほんとに良かったの?その、怒らせて」
「いいんですよ。私には施設か、友人か、璃子さんがいますから」
「彰久さん…」
「璃子泣かないで下さい」
本当にこの人は。
ずびずびしてきたいいタイミングで「はい」とティッシュが飛び込んでくる。受け取ってかむ。こう見ると、彰久さんが年上に感じてならない。
一通りずびずびしたあと、息をはく。
「彰久さん、幸せになりましょうね」
この人は優しい。優しくて、つい私は甘えてしまう。寄りかかってしまう。けれど、彼は?
くっつきながら、そういってみる。あんなおばさんやおじさんが、なんだ。身内がいないから、なんたっていうんだ。身内の方が手に負えないことだってあるし、他人のほうが優しいことだってある。
私は、他人じゃない。
貴方の、支えになりたい。
一人がどうした。だれだって一人じゃないか。だから一人から二人になって、さらに増えるんじゃないか。
《一人より二人》
それは普通、男が言うのではないですかと笑った彰久さんに、「今は女もいうんです」とつられるように笑った。
了
2016/2/1