秘密の契約
「朝倉さん?朝倉さん?」


名前を呼ばれて千波は我に返った。


「え?あぁ」


呼ばれた方を向くとイベントスタッフの男性が心配そうな顔で立っていた。


「お疲れじゃないんですか?こちらに来てからあまり寝ていないんじゃ?」


「いえ 大丈夫です すみません」


千波はその端整な顔で微笑んでビュッフェスタイルの食事を確認し始めた。


確認していると十和子が姿を見せた。


「千波さん、お疲れ様です」


にっこり微笑み隣に来る。


忙しいのに疲れた顔一つ見せない。


「お疲れ様です」


「日菜さんと会いました?」


十和子が聞く。


「……いいえ」


千波は十和子を離れて飲み物のカウンターに歩いていく。


「恋人なのに冷たいのね?」


十和子は千波の後を付いてきていた。


十和子の言葉に小さくと息を吐いて立ち止まると振り返った。


「仕事をしてください 十和子さん」


第3者に日菜との事を話したくない。


傷つけてしまった日菜に早く会いたかったが今日はいつにもまして忙しい。


昼食もまだで日菜に会える時間は作れそうになかった。




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