秘密の契約
ノックの音が医務室に響いた。


「どうぞ」


看護士と入れ替わりに郁斗が入ってきた。


手には日菜の赤いコートを持っている。


「お前には振り回されっぱなしだよ」


あきれ返った様子でぼんやり立っている日菜の胸にコートを押し付けた。


コートを受け取ったものの日菜の表情は硬い。


「日菜、すぐにコートを着るんだ」


千波くんと会話をするのが怖い。


日菜は後ずさる。


その姿を見ていた千波が郁斗を見る。


「郁斗、2人だけにして欲しい」


そう言いながら足を引きずって日菜に近づく。


「……郁斗、行かないで」


日菜は困ったように小さく首を横に振る。


ドアノブに手をかけた郁斗が日菜の言葉に立ち止まる。


「郁斗」


千波がもう一度名前を呼ぶと郁斗は肩をすくめて出て行った。




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