秘密の契約

嫌い・・・

千波の瞳に囚われて日菜は動けなかった。


「日菜、俺の事嫌いになった?」


顔が近づいて20センチと言う所で止まった。


きれいに整えられていたサラサラの髪は階段から落ちたせいで少し乱れている。


細い肩を震わす日菜。


「どうなの?本当の事を言って?」


口元を緩ませた千波はいつもの余裕の顔に戻っている。


千波くんはずるい……。


あたしが嫌いだって言えない事なんて承知なんだ。


「き、・・・嫌い」


日菜は悔しくてそっぽを向いた。


「そうだよね 俺は日菜を傷つけた……」


千波のいつになく切ない声がして日菜はパッと千波を見た。


「千波くん 十和子さんの事が好きになったんでしょ?だったらあたしを思いっきり振って!」


心に溜まっていた事をやっと口にした。


「十和子さん?日菜は勘違いしてる 俺が愛しているのは日菜だけだ おもいっきり振られる事はあっても振るなんて事はないよ」


「嘘!嘘よ!」


でなければあの人があんな事を言うわけがない。




<公私混同しない人だけど夜は別よ?ずっとわたしたちはこのホテルで一緒だから 何か無い方がおかしいわよね?>




十和子が日菜に電話で言った言葉だ。


あんなにきれいな人を前にしたら……。


千波くんでも気持ちが彼女に向いてしまうだろう。




< 641 / 684 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop