椿の姫君
赤
とある国の、とある都。
赤髪の少年が橋を渡って向こう岸に行こうとしている。
橋の向こうには、大きな大きな椿の大木がある。
少年が橋を渡り切って、開きかけた蕾の椿の木を見上げると…。
「そこどいて!
危ないっ!!」
少女が、頭上から落ちてきた。
こんな物語の世界のような出会い方があるのだろうか。
少年はそんな風に考えながら見上げていると、案の定、落ちて来た少女と激突した。
「痛たた…。
あっ、ご、ごめんなさい!!
怪我はない?」
少女は慌てて、下敷きにしてしまった少年から飛びのいた。
「俺は平気だよ。
君こそ怪我は無い?
結構な高さを落ちたろ?」
「私も平気。
あなたのお陰でね。」
少女はそう言って少年に笑って見せた。
少年も、そんな少女の姿を見て思わず顔が綻んだ。
そして少年の視線は、少女が握りしめているものに向いた。
「それは、椿の花だよね?
その為に木に登ったの?」
「うん。
どうしても、椿の花を見せたい人がいるの。
花が咲いていたのは高いところだったから登ったんだけど…。」
「落っこちちゃったんだ。」
少女の言葉に、少年は苦笑しながら返した。
少女は恥ずかしそうに俯く。
「そうなの。
でも、貴方が木の下にいてくれたお陰で、花も私も無事よ。
ありがとう!」
「どういたしまして。
でも、何で落ちたの?
木登りは得意そうな感じがする。」
少女が落ちて来た高さから考えて、普段からよく木に登っていそうな印象を受けた少年は、何となく聞いてみた。
そうしたら、少女は椿の花に負けない華やかな笑顔を少年に向けた。
「木登りは得意だよ。
毎日しても飽きないくらい!
けど、今日はつい、足を踏み外してしまったの。
木の上から見た、貴方の髪がとっても綺麗だったから。
ほら、この花と同じ色をしてる。」
手に持っていた椿の花を、少年の顔に近づける。
「椿の花と比べられるのは初めてだけど、悪く無いね。」
少年は笑って、その花と持ち主を見つめた。
その反応が楽しくて、2人は暫くの間談笑して、それぞれの行くべき方向に向かって歩き出した。
「また会えるかな?」
「さあ、どうだろう?
この花の木が会わせてくれるといいね。」
「うん、私もそう思う!」
別れ際にそんな会話をしてみたけれど、2人ともお互いに、もう会うことは無いだろうと思っていた。