椿の姫君
蘇芳
しかし、再会の瞬間は想像しているよりはるかに早く訪れた。
「さっきの木登り娘。」
「椿の髪の毛の人だ。」
2人は、都の中央に位置する、城の中で再会した。
この国の姫君と、異国の地からやって来た王子として。
少女、もとい姫君は、思わず手に持っていた椿の花を後ろ手に隠した。
今日来る予定の異国の王子に見せたかったなんて、恥ずかしくてとても言えない。
少年こと王子は、そんな姫君の行動に苦笑した。
「まさか、ここでまた会うことになるなんてね。
姫君が木登りなんて、想像してなかった。」
「どうせ御転婆姫だもん。
こっちこそ、異国から来た王子が1人で歩いてるなんて思わなかった。」
「初めて来た街は、1人でふらふらするのが一番好きなもので。」
2人は互いに思った事を言い合うと、顔を見合わせ、笑い出した。
「その椿の花を見せたい相手って、俺?」
王子が優しく問いかけると、姫君はこくりと頷いた。
「そう。
この国以外では椿の花は咲かないって、本草学者に聞いたから、見せて差し上げたくて。」
「ありがとう、嬉しい。
その花の真下で君に会えたことも含めて、ね。」
「私も、貴方に見せることが出来て、喜んでくれて嬉しい。」
今日、この地で2人は婚約するために、出逢うはずだった。
王の一人娘の姫君と、姫に婿入りする第三王子、そんな関係で。
その前に、たまたま椿の大木が引き合わせてくれた。
2人は運命という物を感じ、それから間も無くして、姫君は女王として即位した。
城のあちこちに、2人の出会いのきっかけになった椿が植えられて、後に国民からは椿城と呼ばれた。
2人は互いに協力しあいながら、この先何十年に及んで良く国を治めた。
橋の近くに今年も咲いた椿の花は、今日も誰かを幸せに導いている。