涙色。
そんなこんなで周りの空気も考えて、付き合うことになってしまった。
しまった。
とか言いながら、実は誰よりも周りに感謝してたりする。
まぁ、嬉しかったんだ。
初めての胸の高鳴りを教えてくれた人だから。
やっぱり、好きなんだなぁ…って思う。
そして今も目の前にいる。
「どこ行くー?」
成宮さんが暇そうに聞いてくる。
別に行きたいとこないな。
強いて言うなら成宮さんの家…。
なーんね。
ははー。
といろいろ考える。
今日は付き合って2ヶ月目で9月の夜の街中をのんきに歩いてる。
もう成宮さんと一緒ならどこでもいーや。
って惚気てみる。
「…りい…。」
…りい!?
成宮さんから初めて下の名前で呼ばれる。
胸が騒がしくドキドキする。
一気にほほが熱くなるのがわかる。
「なな!なに!?」
驚きと嬉しさで声が少し大きくなってしまう。
「…家、くる?…いや、行こう。」
私の手を取り、ぐんぐん歩いていく。
家!?
家、ですか!?
本当に!?
家!?
考えていたことを見られたようでなんだか恥ずかしくなる。
ど、どうしよ…。
「えと、あの。成宮さんっ。」
「ん?…成宮さんて誰?」
とぼけた顔をしてくる。
は?
「誰って、成宮さんじゃ」
「ちげーだろ。」
少し笑って私を急かす。
あー。
そうか。
わかった。
「…優…都…」
こう言ってほしいの?
これだけのことで鼓動が速くなる。
「うん。どーした?」
優しく笑うと、優都は私をギュッと抱きしめた。
「甘えん坊め。犬みたい。」
私は照れ隠しで言った。
優都は「ははっ」と笑う。
「俺は犬になるよ。りいに甘えるー。」
ドキドキして全身が熱くなる。
幸せすぎて、死にそうだ。
離したくないな。
「犬なら、私から離れちゃダメだよ?」
私もワガママだな。
そう思いながらも優都の優しい言葉を待つ。
でも、優都は何も話さない。
…優都?
またか…。
‘‘離さないで”とか‘‘一緒にいようね”とか…。
そういうことを言うと、返事が返ってこないときが最近多々ある。
その度、どうしようもなく不安になって、胸が痛くなる。
なんで、答えてくれないんだろ。
私といたくないのかな?
‘‘幸せ”とか。
思ってんの私だけなのかな。
‘‘好き”って言えば‘‘好き”って返ってくる。
‘‘愛してる”って言えば‘‘愛してる”って返ってくる。
‘‘ずっと好き”って言えば‘‘俺も”って返ってくる。
いつだって私の想いを届ければ、それを何倍にもして返してくれる。
なのに…。
なのに。
どうして言ってくれないの?
‘‘離さないよ”って。
どうして?
前みたいに言ってほしいよ…。
こんなにも好きなのに。
こんなにも大きな溝がある。
一言、言ってくれれば埋まるんだよ?
もう、どうすることもできないの?
たくさんの思いが頭と心を埋め尽くす。
目頭が熱くなって涙が流れそうになる。
でも、優都の前では泣けない。
こんな思いも、言えない。
なぜって…。
私のキャラに反してしまう。
無理に笑うと、頭の真上にある優都の顔を見つめる。
優都は少し抱きしめていた腕の力を弱めた。
「違うか…。私が、犬さんが離れていかないように頑張らなきゃいけないね!」