そっと、きえていく
重い空気のせいか、わたしも今野さんもそれから殆ど口を開かなかった。
でも、どちらもこの場を動こうとはしない。
べっとりと、雨が地面に吸収されていくみたいに、わたしはここを動けなかったし、今野さんも座ったままだった。

いつのまにか、ココアも飲み干されて、今野さんの手元にあったコーラの缶もどこかへ行ってしまった。

夕暮れのグラウンドには、サッカー部やバレー部、テニス部などが元気に練習していた。

何か、こういうのいいかもしれない。
わたしはいつも、部活がある時は部活をしているし、ない時はどこかへ遊びに行ったり、購買近くで友だちとくっちゃべっている。
そんな時、いつもこの夕暮れが寂しすぎて、好きになれなかった。

でも、今こうやって何をするでもなく、ただ落ちてゆく夕日や赤、紫などの空を見るのも、なかなかオツなものだ。

校内を走るかけ声や、汗にまみれつつもボールを追いかける人。
普段気に留めない、全てのことが宝物のように思えた。
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