そっと、きえていく
何気なしに言ってしまった毒牙、という言葉。
あちゃー、と思いつつ、目の前で笑い出す加奈ちゃんを見ると、そんなに悪い気分じゃなかった。
「毒牙ねぇ、確かにそうだわ。でもありがと、忘れてた。あんなヤツこらしめても、絶対こりないだろうし。それならいっそ、もう無関係になった方が早いよね」
「そうそう」

よかった、何とか機嫌を直してくれたみたいだ。

「どうやって離れようか。いきなり離れると、何か怪しまれちゃうよね」
「今日のあたしみたいでいいんじゃない? 付き合い悪くしてったら、いずれ誘う気にもなんなくなるんじゃないか、と思うんだけど」

そうか……なるほどね。
真正面からさよなら、とかかますんじゃなくて、あくまでも時間の経過を利用する、という魂胆ね。

確かに、はっきりしないが、これも一つの戦術だろう。

「でもさ……尻切れトンボじゃないかな……イジめられたりしないかな」
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