そっと、きえていく
第2章
すごい人、なんて我ながら頭の悪そうな表現をしてしまった。
……確かに、頭は悪い方だけれど。

どうすごいのか。
彼は、とにかく身にまとうオーラが普通の人々と、明らかに異なっていた。

軽い色彩の代表格の茶髪は、空気を含ませたように風になびき、そのふわりとした様子は髪の毛がとても柔らかいのだろうな、と想像させる。

肌は全体的に白くって、男の子の持つ力強さみたいなのは感じられないけれど、そのかわり女の子でも持っていないような繊細さまで、あの人は持っているような感じがする。

瞳は茶色くて、アーモンドの形をしている。
大きな目の間を通る鼻は、筆でしゅっと書いたよう。
口元は上品で、この口からどんな声が聞けるのだろうか。

175センチはゆうにこえる身長で、それでも体格はしなやか。
骨ばった感じはあまりなく、でもスポーツが得意そうに見える。


「ふあ~、やっぱ6時間目の家庭科は眠いけど楽だなぁ。サイコー」

あ……あの人が、しゃべった……。
でも、予想してたよりも低くって、間の抜けた声。
何だかミスマッチで、おもしろいな。

「コンちゃん、そういや今日部活ないらしいよ」

となりにいたこれまたキラキラしたオーラを放っている男の人が、そのものすごい人に話しかける。この人もカッコいいんだけど、コンちゃんさんに比べると、幾分劣る。


「えっ、マジで! はぁー、何もすることないじゃん」

「だな。俺は、ちょっと図書室よってくわ。ベンキョーベンキョー」

「コンちゃんは?」

もう一人、これは全然普通の人がたずねる。
コンちゃんさん、人気があるんだな。
まわりにいる誰もが、コンちゃんさんに話しかけている。
コンちゃんさんはまん中にいるけど、やっぱり位置と同じで会話の輪の中心にいるみたいだ。


「んー……。どっかで時間つぶして、そんで帰るわ」

て、テキトー……。

だけど、そんな“テキトー”なこの人を、一度見て目が離せない自分がいることに気がついた。
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