恋の後味はとびきり甘く
 彼の言葉に、胸の中の不安が雲のように広がっていく。

「卒業後、就職って……何年くらい?」
「わかりません。少なくとも奨学金を返済して、一人前になって恩返しをするまでは働かなければとは思います」

 声が震えないように、私は膝の上でギュッと手を握りしめた。

「そっか。でも、よかった、ですよね」
「鈴音さん?」

 涼介くんの表情が怪訝そうなものに変わった。私は笑顔を作って言う。

「ベルギーに留学したいって夢が叶うんですよね? 奨学金が貸与されるなら、学費の問題もクリアされるじゃないですか」
「鈴音さんはそれでいいんですか?」

 まっすぐに見つめられて、思わず視線を逸らしてしまう。

「涼介くんの夢が叶うんだから……」
「俺の目を見て言ってください」

 涼介くんが手を伸ばして私の両頬を包み込み、目を覗き込むようにして言った。目を逸らせないほど近くに彼の瞳がある。

 こんなふうに見つめられたら、嘘はつけない。
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