恋の後味はとびきり甘く
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彼が帰った後、私は母が遺してくれたお金を使う決心を固めた。開業資金は社会人時代の貯金と退職金から捻出したが、気に入ったものだけ仕入れるというスタンスが影響して、貯金が底をついてしまった。でも、私が三歳のときに父と離婚して以来、女手ひとつで私を育ててくれた母のお金には手を付けまいと思っていたのだ。
会社を辞めてチョコレートショップを開きたいと言ったとき、母は「あなたのやりたいようにやりなさい。人生は一度きりだから」と応援してくれた。そのすぐ後、母は病気で倒れ、意識が戻らないまま短い入院生活の後、息を引き取ったのだ。
もしこのまま店を軌道に乗せられず潰してしまったら、応援してくれた母の気持ちさえ消えてなくなってしまう気がする。
それは嫌だ。絶対に嫌。
モン・トレゾーは私の店でもあるけれど、母が背中を押してくれたからできたもの。
潰すわけにはいかない。
悩んだあげく、信頼できそうなビジネスコンサルタントを探して、助言を仰ぐことにした。とはいえ、やみくもに電話帳で探すわけにもいかず、今日は店を早めに閉めて、同じ商店街で紅茶専門店を開いている咲恵(さきえ)さんを訪ねた。