恋の後味はとびきり甘く
「鈴音さん」
「行って。涼介くんの夢なんだから、ベルギーに行って」

 私は顔を覆ったまま、叫ぶように言った。

「でも、何年も会えなくなるんですよ」
「涼介くんは行きたいんでしょう?」

 返事がないので、私は指の間から彼を見上げた。彼が下唇を噛みしめている。

「行きたいけど……行きたくない」
「私は……行ってほしくないけど……行ってほしい」
「鈴音さん……」

 彼が苦しげに眉を寄せた。悩んでいるのがよくわかる。だからこそ、私が引き留めちゃいけないんだ。私が彼の夢の枷になっちゃいけない。

「行って。お願い。涼介くんの今までの努力が報われるチャンスでしょう!? それに、おじいさんだってきっと行ってほしいと思うはず……」

 涼介くんの悩み苦しむ表情を見たくなくて、私は手を伸ばして彼の首にしがみついた。

 泣いたらいけないと思うのに涙があふれてきて、彼を引き寄せその肩に顔を押しつける。

「鈴音さん、泣かないで」
「泣いてないっ」
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