恋の後味はとびきり甘く
 私の返事を訊いて、女性がショーケースの中のチョコレートを指で差していく。

「じゃあ、これとこれと……それからそのトリュフのメーカーのカタログをください」

 女性が示したものを見ながら、私はうしろの棚から小さな冊子を取り出した。

「ほかにご入り用のものはありますか?」

 女性は少し考えてから答える。

「んー、今日は下見なので」
「かしこまりました」

 カタログを紙袋に入れて女性客に差し出した。

「ありがとうございます」

 受け取った女性客が頬をかすかに上気させた。恋してますって感じだ。好きな人のことを考えているんだろうな。

「じっくり吟味しないとね」
「うん」

 ふたりでそんなことを言い合いながら店を出ていった。

 そうだ。うちのチョコレートはモン・トレゾー、私の宝物。大切な人に贈るものなんだ。こうして選んでくれる人たちのためにも、今は目の前のやるべき仕事に集中しなくちゃいけない。
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