恋の後味はとびきり甘く
「鈴音さんにモン・トレゾーを閉めてくださいなんて言えないから、待っててほしいんです」

 涼介くんが指輪をはめようとするので、私は左手をギュッと握った。

「鈴音さん?」

 涼介くんの声が怪訝そうになる。

「ごめんなさい……待てません」
「どうしてですか?」

 涼介くんが眉を寄せた。ふたりの間の空気が、急に冷えた気がする。

「だって、待つってどのくらいの期間なんですか?」
「それは……」

 涼介くんが口ごもった。

「私の知ってるショコラティエは、五年間フランスで修業してたって。それでも早い方だって聞きました」
「じゃあ、五年よりも早く帰ってきます」

 私は首を振った。

「修業をあわてたり焦ったり、おざなりにしてほしくないんです」
「そんなことしません」
「それでも……待てないんです」
「どうしてですか? 鈴音さんは俺のことをそこまで好きじゃないんですか?」
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