恋の後味はとびきり甘く
 私は涼介くんをまっすぐ見て言う。

「たった二年半でもそんなことになるのに、先の見えない期間、待つことなんてできない。涼介くんはあのときの父よりもずっと若いし、これからまだいろんな出会いがあるはずだから」
「どんな出会いがあっても、俺は絶対に心変わりしたりしません」

 彼の目つきが強くなり、きっぱりと言った。好きな人にそんなふうに言われて、目頭が熱くなる。お互いの気持ちが永遠なのだと信じられたらどれだけいいか。でも、苦い記憶が蘇って、胸が苦しくなる。私が高校生のとき、『どうしてお父さんと離婚したの?』と母に訊いたら、母がつらそうな顔で一度だけ教えてくれた言葉……。

「母が帰国するとき、心配する母に父が言ったそうです。『絶対に心変わりなんてしない。ドイツと日本で離れて暮らしても、心は離れないから』って。それなのに離婚するときには『転勤することになって焦って結婚を決断してしまった』だなんてひどいことを」
「鈴音さん……」

 涼介くんが強い力で私を抱き寄せた。

「それなら、俺に……ついてきてください」
「それはできないって……わかってるでしょう? この店は私と母のものなの。捨てるなんてできないんです」

 私は涼介くんの腕の中から抜け出そうと彼の胸に手を押し当てたが、彼がそうさせまいとするかのように腕に力を込めた。
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