恋の後味はとびきり甘く
「ど、どうしたんですか?」
「なんか大人の世界を垣間見ちゃいました~」
「なに言ってるの。美佳ちゃんだって立派な大人じゃないですか」

 私の言葉に、美佳ちゃんが唇を尖らせた。

「でも、『なかなか手に入らないものほど落とし甲斐を感じてしまう』なんて、私には誰も言ってくれませんよ!」
「あんなの本気にしちゃダメ。裏を返せば、簡単に手に入るものは簡単に飽きちゃうってことなんですから」
「そうなんですか? あれは鈴音さんをどうしても手に入れたいっていう本気のアプローチだって思いましたけどぉ。古川さんって、仕事のできる爽やかイケメンって感じでいいじゃないですかぁ!」

 美佳ちゃんのテンションがどんどん高くなり、私はふうっと息を吐いた。古川さんのあのノリにはついていけないけど、彼はうちの書類を見るだけじゃなく、ちょくちょく店に顔を出して、実際の経営状況を目で見てチェックしてくれている。店が軌道に乗ったのは所長のおかげもあるけれど、そのまま上向きの状況を維持できているのは、古川さんの気遣いのおかげもあるかもしれない。

「仕事でお世話になってるから、お礼のチョコレートならあげてもいいけど……そうすると変な誤解をされそうな気がして」
「どうして本命チョコをあげないんですか?」
「うーん……」
「もしかして鈴音さん、好きな人がいるとか」
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