恋の後味はとびきり甘く
 苦笑する私に、美佳ちゃんがエプロンのポケットから一枚の大きな広告を取り出して広げた。

「昨日の新聞に折り込まれてましたよ」

 美佳ちゃんに言われて、なにげなく広告に視線を送った私は、目に飛び込んできたその写真を見て息を呑んだ。

「嘘っ」

 美佳ちゃんの手から広告をひったくるようにして取り、そのカラーの写真をまじまじと見る。それは大手デパートの広告で、数々の有名ショコラトリーの商品写真に混じって、ひとりの男性ショコラティエが白い制服姿で微笑んでいた。甘さのある爽やかな顔立ち。顎のラインが男性らしく逞しくなっているが、キレイな弧を描いている唇は変わらない。

「この人……」

 ようやく発した私の声に美佳ちゃんが反応する。

「もう、鈴音さんだってやっぱり興味があるんじゃないですかぁ! ね、すんごいイケメンでしょ? 滝井涼介さんって言うんですって。ショコラ・レーヴで七年修業してたそうですよ。今回初来日してショコラ・レーヴのコーナーで実演するらしいです!」
「そう……なんだ……」

 デパートの特別会場で開かれるチョコレートの催事についてはチェックしてたけど、実演については調べてなかったな……。涼介くん、来日してるんだ……。しかも実演時間がもうすぐだって……。
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