恋の後味はとびきり甘く
 実演はもう始まっていて、彼が温めた生クリームに刻んだチョコレートを加えているところだった。写真では微笑んでいたが、今は真剣な表情だ。私の誕生日に料理を作ってくれたときと同じ表情……。

 まるで観客なんていない、とでもいうように、手もとだけを見つめ、泡立て器でボウルの中身を混ぜ合わせている。

 七年経って大人の男性らしさが増した彼の横顔に、胸の中の熱がうねるように膨れあがる。熱くて苦しくて、どうにかなってしまいそう。

 私、涼介くんのことが好き。まだ好き。

 でも、涼介くんは……?

 彼はできあがったガナッシュを四角い金属製のケースに流し入れ、ヘラで丁寧に表面を均した。そうして顔を上げて、観客ににこやかに語りかける。

「これを冷蔵庫に入れて冷やし固めます。で、冷やし固めたものがこちらです」

 小型の冷蔵庫から別のケースを取り出して、カウンターに置いた。包丁で均一な大きさにカットした後、コーティング用のチョコレートを湯煎にかけて溶かし始めた。そして切ったガナッシュを手のひらで団子状に丸めては、溶かしたチョコレートでコーティングしていく。
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