恋の後味はとびきり甘く
 古川さんの顔が近づいてきて、その色気たっぷりの視線から逃れるように顔を伏せた。

「小谷さんと同じように俺も仕事を大切にしてる。今までひとりで切り盛りしてきた小谷さんの仕事の邪魔をしないし、割り切った付き合いができる」
「割り切った……付き合い……」

 上目遣いで彼を見た。古川さんは私をそういう付き合いのできる女性だと思ってるんだ。

「小谷さんはそういうのがいいんだろ? 伯母も言ってた。小谷さんに決まった人がいないのは、仕事を大切にしすぎてるからだって」

 私の顎に古川さんの手がかかり、くいっと持ち上げられた。この辺りでも噂の、女性に手の早いイケメンコンサルタント。でも、仕事を大切にしているのは私と同じ……?

 私が大切にしていたのは、仕事もだけど、母と、そして涼介くんとの思い出もだ。でも、いつまでも思い出にしがみついてちゃいけないんだろうか?

 きっとそうなんだろう。彼は日本に帰ってきてたのに、私に会いに来てくれなかった。私を見ても、気づかなかった。彼の中で私との関係は終わっていたんだ……。

 私も終わらせなくちゃいけない。七年も経ってからこんなふうに気づかされるなんて、本当になんて後味の悪い恋だったんだろう。
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