恋の後味はとびきり甘く
「小谷さんの隙間時間を、俺に埋めさせて」

 耳もとで彼の甘いささやき声がする。今彼の方に顔を向けたら、きっとキスされる。そうしたら、私は新しい恋へと踏み出すことになる……。

 ゆっくりと顔を向けると、古川さんと視線が絡まった。

 本当にこれでいいの?

 迷いを打ち消すように瞳を閉じた。唇に彼の熱い息がかかる。キスされる、と思った瞬間、店のドアが開く音がした。ハッとして目を開け、驚いた顔の古川さんを押しのける。

「いらっしゃいま……」

 最後まで言うことができなかった。ドアのところに涼介くんが立っていたから。彼は私と古川さんを見て、凍り付いたように立ちすくんでいる。

 古川さんが私の表情を見てゆっくりと腕を組んだ。

「知り合い?」

 そうして、いいところを邪魔してくれたな、と言わんばかりに、涼介くんに鋭い眼差しを向けた。涼介くんが困惑したように彼を見て、私を見る。

「すみません。日本に帰ってきたんで……ご挨拶をと思ったんですが……お取り込み中だったようですね。お邪魔しました」
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