恋の後味はとびきり甘く
「や。そうじゃないです。こんなのちっとも痛くない。痛いのは鈴音さんの心の方なのに、なんで俺に気なんか遣ってるんですか」
「気なんか遣ってないですよ」
「だって! 本当なら怒ってもいいでしょう? お茶に誘ったのは俺なのに、鈴音さんはわざわざこうして紅茶を淹れてくれて、俺に付き合ってくれた。本当は俺とは話したくなんかなかったんですよね!?」

 彼の言葉に驚いて、私は椅子にすとんと腰を下ろした。

「そうじゃなくて」
「なにがそうじゃないんですか? 『こんな話になるってわかってたら、お茶に誘ったりしなかった』って言ったじゃないですか。俺はあなたの迷惑を顧みずに……無理に……」

 彼が苦しそうに顔をゆがめて視線を落とした。私はあわてて言う。

「違うんです! ホントは涼介くんはどんな食べ物が好きなのかな、とか、彼女はいるのかな、とか、そういう話ができると思ってたからでっ」

 涼介くんの眉間のしわが消えた。彼の目が大きく見開かれる。

「あ、ごめんなさい! 私ってばなに言ってるんだろう。そんなこと訊かれても困りますよね。あの、深い意味はないんです。ただ、ちょっとした好奇心っていうか。えっと、その」
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